結木礼のちょっと怖い話

結木礼(ゆうき・れい)ライター・編集者。怖い話を中心に、ゆかいな話、おもしろい話など、ゆるゆると書いていきます。お問い合わせは下記URLからお願いします。 https://www.yuki-rei.com/otoiawase

ライバル

高校受験を間近に控え、私は連日、ふらふらになるまで勉強をしていた。
この苦しみがわかるのは、同じ難関校を受験するヒナちゃんだけだ。

ヒナちゃんは親友だけど、ライバルでもある。
成績も似たり寄ったりで、どちらも合格するかどうか、五分五分といったところ。
私はできれば、ヒナちゃんと一緒に入学式に出席したい。
ヒナちゃんも、同じ気持ちなら嬉しいな。

ヒナちゃんのがんばりは、顔色を見ればわかる。
いつも青白い顔で、睡眠不足なのだろう。
きっと私も、同じような顔をしているはずだ。

私たちは学校で顔を合わせるたびに、「勉強している?」「もう大変で、死にそうだよ」なんて会話を交わしている。
試験を翌日に控えた朝も、「こんなことをしていると、マジで死ぬよ。もう無理〜」 「ははは……、私も〜」と力なく笑い合った。

でも、徹夜の日々も今日で最後だ。
ヒナちゃんは私に、「夜、つらくなったら飲んでね」と栄養ドリンクを差し入れてくれた。
私もお返しに、「夜、寒くなったら使ってね」と使い捨てカイロをあげた。

その夜、スマホが「ピロン♪」と鳴った。
ヒナちゃんからのメッセージだ。
おーい、生きている?」 なんて書いてある。

時計を見ると、午前2時。
ヒナちゃんもがんばるなぁ。
私は「うん、まだまだ生きているよ!」と返信した。

またスマホが、「ピロン♪」と鳴った。
「あれ? 栄養ドリンクをまだ飲んでいないの?」とヒナちゃん。

栄養ドリンクは飲まずに捨てた。

トイレのいたずら

昼間から発泡酒をひっかけ、近所の家電量販店へ。
エアコンの効いた店内で、マッサージチェアに座って一眠りするのが、オレにとって最高の休日だった。

だが1ヵ月ほど前、いつものようにマッサージチェアでグースカ寝ていたオレは、店のスタッフにゆすり起こされた。
そいつは「ほかのお客様のご迷惑になります」と、すました顔で言い放った。
生意気にも、胸に「店長」なんて名札をつけてやがる。

ふん、ほかに客なんて一人もいないクセに。
オレはそいつを軽くにらみつけ、ひとまずその場を立ち去った。

次の日から、俺はマッサージチェアではなく、その店のトイレに直行するようになった。
トイレに特大の爆弾を落としてやり、水を流さずに立ち去る。
これが、オレの考えた復讐だった。

何度も続けていると、ある日、トイレに「いたずらはやめてください」という注意書きが貼られるようになった。
ふん、オレはいたずらなんてしていない。
いつも「水を流し忘れている」だけだ。

かまわずに爆弾を落とし続けていると、何日か後にトイレの注意書きが「見ているぞ!」というポスターに変わった。
店長らしき人物が、人差し指をこちらに向けて叫んでいるイラストが描かれている。
ふふ…、あの店長がわざわざこれを描いたかと思うと、笑えてくる。

せっかくだから、もっと面白くしてやろう。
オレはポスターをとめている画びょうをいくつか外した。
この画びょうをイラストの目に突き刺せば、「目を光らせている」というポスターのテーマにぴったりだ。

画びょうを刺そうとして、俺は気づいた。
イラストの黒目の部分が、くり抜かれていることに。

その奥から、本物の目玉がぎょろりと覗いていた。

六角形の鏡

クラスメイトのヒカルは、怪談や都市伝説が大好きなオカルトマニア。
実際に「こっくりさん」や「百物語」を実行し、恐ろしい目にあったこともあるんだって。
そのヒカルが、面白い話を教えてくれた。

深夜2時22分、六角形の鏡に向かって「オ カ ガ ミ サ マ イ デ ヨ」と3回唱えると、鏡のなかに悪魔があらわれる。
悪魔は呪いの言葉をかけてこようとするんだけど、その前に急いで願いごとをいえば必ず叶うそうだ。
でも悪魔に先を越されると呪われてしまう…。
ヒカルは恐ろしい顔をつくって、そんな話をした。

家にちょうど六角形の鏡があったから、私は冗談半分でヒカルの話を試してみた。
でも、悪魔なんか全然出てこない。

次の日、眠い目をこすりながらヒカルに文句をいうと、「ふざけた態度でやったんじゃない? もっと真剣にやらなきゃ」といい返された。
私はムキになって、「そんなにいうなら、今夜マジでやってみる!」と宣言した。

深夜2時22分、私は六角形の鏡の前に立った。
背筋を伸ばして、キリリと真面目な顔をつくり、呪文を3回唱えた。

やっぱりだめだ…。
六角形の鏡には、昨日と同じ、ヘラヘラ笑っている私の顔が映っているだけ。

「あーあ」とため息をつき、鏡に背を向けた瞬間、後ろから「おい…」と声をかけられた。

スリープモード

パソコンのオンラインゲームにすっかりハマってしまった。
起きている時間は、ずっとログインしているような状態だ。

当然、パソコンの電源も、いつも入れっぱなし。
最初は寝る前に電源を切っていたんだけど、ディスプレイが消えたときに、画面に自分の顔が反射して映るだろ…?
あれが嫌なんだ。

せっかくカッコいいキャラになりきっていたのに、なんだか現実に引き戻されるような気がするし、一日中寝グセのついたブサイクな顔は見たくない。
画面に映っている自分の顔も、何か言いたげに見えてきて、気分が滅入ってしまう。
だから、基本は「つけっぱ」にしているんだ。

最近、寝ているときに、パソコンが不思議な挙動をする。
いつも昼間に寝ているオレは、カーテンを閉め切って部屋を暗くしているんだけど、スリープモードにしているはずのディスプレイが、明るく光っているときがあるんだ。
酷使しすぎて故障したかな…と思っていたんだけど、しばらくするとまたスリープモードに戻るから放置していた。

でも、ここのところ毎日、そんな症状に見舞われている。
気がつくと、薄暗い部屋にパソコンの画面が光っているんだ。
昨日はなかなかスリープモードに戻らないから、わざわざベッドから這い出して電源を切った。
まったく面倒くさい。
暗転したディスプレイに、自分の不満顔が映っていた。

そして、今日も相変わらず同じ症状が…。
舌打ちをしながらパソコンの電源を切ろうとしたんだけど、おかしなことに気づいた。
開いた覚えのないブラウザの検索窓に、「ここから脱出する方法」という文字が打ち込まれていたんだ。

著書発売のお知らせ

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著書『戦慄疾走の3分ストーリー 気づかなければよかった恐ろしい話』が2019年6月24日、東京書店より発売されました。

「あとで気づくと…」「意味がわかれば…」系の恐ろしい話を完全書き下ろしで70話以上掲載しています。

各話には、かわいくも恐ろしい影絵による解説も用意しました。

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「悲劇の章」「悪意の章」「呪いの章」「絶望の章」と、章が進むごとに移り変わる影絵の展開にも注目。

amazon等、ネット書店でもご購入いただけますので、ぜひご覧ください。

↓amazon販売ページへのリンクはこちら。

気づかなければよかった 恐ろしい話 (戦慄疾走の3分ストーリー)

お化けが出るトイレ

夏の夜、隣で寝ていた息子が「パパ、起きて」と体をゆさぶってきた。
またか…。
私はため息をついた。

小学生の息子は、夜中にトイレにいきたくなると、いつも私を起こす。
「夜のトイレはお化けが出るから、1人でいくのは嫌だ」という。
まったく、高学年にもなってトイレが怖いとは情けない。
トイレの前で大あくびをしながら、私は苦笑した。

翌日、祖母の家に泊りがけで遊びにいった。
夜には縁側で花火を楽しみ、みんなでスイカを食べた。
スイカをむさぼる息子に、「また夜中にトイレにいきたくなっても知らないぞ!」と注意したが、「大丈夫だよ」と涼しい顔。

田舎の古い家だから、トイレは土間の裏にある。
大人でも、夜中に1人で用をたしていると、身震いするような雰囲気がただよっている。
実際、自分も小さいころ、1人でトイレにいけず、親に叱られたっけ…。
やれやれ、今夜もまた、息子に起こされそうだ。

その日の真夜中、隣で寝ていた息子がむくりと起き出した。
「トイレか?」と声をかけようとしたが、息子は1人で土間のほうにすたすた歩いていく。
ねぼけているのかな…と首をひねっていると、息子がすっきりした様子で戻ってきた。
「1人でトイレにいって、怖くなかったのか?」と聞くと、息子はきょとんとした顔つきで、こう答えた。
「だって、ここのトイレは、家とは違うでしょ」

呪いの声

私は霊感が強い。
おかげで見たくもないものを、よく見てしまう。
年に何度かは、明らかに呪われている人を見かけることも…。
そんな調子だから、身近な人たちにも、「お祓(はら)いにいったほうがいいよ」なんて、ときどき助言することもあるんだ。

最近、こんなことがあった。
クラスメイトのユウカの肩に、この世のものじゃない、なにかが取り憑(つ)いていた。
そいつは、ユウカの肩の上で「呪ってやる…呪ってやる…呪ってやる…」とブツブツつぶやいていた。
私はユウカにお祓いをすすめたんだけど、「気持ちの悪いことをいわないで!」と怒られてしまった。
ユウカは私のすぐ前の席に座っているから、嫌でもそいつが目についてしまう。
私は毎日、「呪ってやる…呪ってやる…呪ってやる…」という不気味な声を聞くハメになった。

1週間ほど経ったころ、先生が席替えをするといい出した。
やった、これで変な呪いの声を間近で聞かなくて済む。
私は一番後ろの席になり、ユウカはその3つ前の席に移った。
後ろのほうから恐る恐るユウカの肩のあたりをのぞいてみたけど、あいつの姿は見えなかった。
その代わりに、私のすぐ前の席になったヒカルの肩から、「呪ってやる…呪ってやる…呪ってやる…」という声が聞こえてきた。

呪われているのは、だれ…?